2019.02.09非血縁のシニアたちが共同墓をつくる理由

こんな記事を発見しました。

無縁墓についてのデータや、共同墓のニーズが書かれています。

お時間のある際にご覧ください。

参照元:ニコニコニュース プレジデントオンライン
https://news.nicovideo.jp/watch/nw4791735


   家族がいない人の墓は「無縁墓」になるしかないのか。葬送問題に詳しい小谷みどり氏は「血縁を越えた人たちで入る共同墓は、子供の継承を前提としていない。自治体だけでなく、お寺や教会、高齢者住宅による共同墓もできている。『独身だから無縁墓』とあきらめるのは早い」という――。

■5人に1人は土葬だった50年前

日本では、人が亡くなって以降のことは、家族や子孫が担うべきとされてきた。例えばお墓は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が継承すると、民法で規定されている。慣習上の「主宰すべき者」とは誰か、までは法律には明記されていないが、多くの人は、長男がお墓を継承すると思い込んでいる。

次男や三男は新しくお墓を建てなければならない、結婚して苗字が変わった娘は一緒のお墓に入れないなどと思っている人も少なくないが、公営墓地や民間霊園では、一緒のお墓に入れる人の範囲は、「6親等内の親族、配偶者、3親等内の姻族」とされているのが一般的だ。

しかも、子々孫々で同じ墓石の下に遺骨を安置するようになったのは、火葬が普及してからのこと。今でこそ火葬率は99.9%を超えているが、1970年には79.2%で、50年前には5人に1人は土葬されていた。子々孫々で入るお墓にはそれほど長い歴史があるわけではない。「先祖代々」「○○家」と刻んだ墓石を建てるようになり、長男がお墓を継承するものだと私たちは思い込み始めたのだが、そもそも、こうした考え方は戦前までの明治民法下のものだ。

■お墓の話になると「戦前にワープ」する日本社会

戦後、私たちのライフスタイルは大きく変わった。例えば子どもがいても、高齢期は夫婦のみで暮らす人が増えている。厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、65歳以上がいる世帯のうち、三世代世帯が占める割合は、1980年には50.1%あったが、2017年には11.0%にまで減少した。変わって夫婦のみの世帯が32.5%と、最も多い世帯構造となっている。

ひとり暮らしも合わせると、高齢者の6割が、すでに独居か、将来的に独居になる可能性がある。長男夫婦が老親と一緒に暮らすという住まい方はもはや少数派だ。

ところが戦後70年以上が経過したのに、お墓の話になると、多くの人が戦前の思想にワープしてしまう。娘夫婦と暮らす二世帯住宅には、二つの苗字の表札がかかっていることが多い。これがおかしなことだとは誰も思わないはずだ。苗字の異なる娘が一緒のお墓に入れないと思い込んでいることが、明治民法の呪縛なのである。

繰り返すが、娘も息子も親からみれば1親等、きょうだいは2親等なので、苗字が何であれ、公営墓地やメモリアルパークと呼ばれる民間霊園であれば、一緒に入ることは何の問題もない。

■「お墓を撤去されたくなければ900万円」

寺院墓地の場合、お寺によっては一緒に入れる範囲を決めているところもある。例えば、実子と配偶者のみ同じお墓に入れると独自に定めているお寺では、こんなトラブルがあった。

数年前に亡くなって、このお寺のお墓に母の兄を納骨したという男性は、ある日、お寺側から、「お墓を撤去して合葬するが、撤去されたくなければ900万円を払ってほしい」という通知を受け取った。母の兄には子どもがいなかった。男性は幼いころから可愛がってもらったため、おじさんの死後、お寺の年会費を代わりに負担し、年に数回の墓参を続けてきたという。

このお寺の規則では、実子ではない男性がお墓を継承することはできないため、お墓を無縁墓として撤去するか、男性が新しくお墓を建てるのに必要な永代使用料900万円をお寺に支払うか、という選択肢をお寺は提示してきたのだ。

もちろん、こんなお寺ばかりではないが、配偶者と実子しかお墓に入れないという考え方は、これからの社会において破たんしている概念であることに気づくべきだ。お墓がお寺にある人は、どこまでの範囲でお墓に入れるのかという決まりがあるかどうかを、墓地の霊園規則で確認したい。

■4割が「無縁墓」になっていた熊本県人吉市

そもそも配偶者も実子もいない人が急増している。50歳時点で一度も結婚経験のない人の割合を示す「生涯未婚率」は、2015年は男性が23.4%、女性が14.1%だった。男性は長く「結婚して一人前」とされてきた風潮があり、1950年の数値は1.5%にとどまっていたが、1990年以降急増した。

増加に転じたこの年に50歳だった男性がまもなく80歳を迎える。これからは、生涯未婚の男性がどんどん亡くなっていく社会が到来し、配偶者や実子がお墓を継承するのが当たり前、ではなくなるのだ。

実際、熊本県人吉市では、2013年に市内の全995カ所の墓地を調査したところ、4割以上が無縁になっており、なかには8割以上が無縁墓になっている墓地もあった。東京都では2000年以降、年間管理料を5年間滞納し、親族の居場所が分からない無縁墓を撤去しているが、今後増える無縁墓対策として、撤去したお墓の遺骨を納められるよう、2012年に無縁合同墓を新たに整備した。

■「死後もつながりたい」共同墓へのニーズ

偕老同穴という言葉がある。夫婦が共に老い、死後は同じお墓に葬られるという意味だが、こうした考えを支持しない人もいる。夫婦でも先祖でもない人と一緒に入りたいという考えもそのひとつだ。自治体が運営する公営の共同墓もあれば、市民団体、お寺やキリスト教会などが運営する共同墓もある。いずれにしても血縁を超えた人たちで入る共同墓は、子々孫々での継承を前提としていない点が特徴だ。

こうした脱血縁墓のなかには、生前のつながりで、死後の共同性を模索する動きもある。例えば1999年に設立された兵庫県高齢者生活協同組合は、県内で5600人ほどの会員を抱える組織だが、2014年2017年にそれぞれ別の民間霊園に共同墓を建立した。「ひとりぼっちの高齢者をなくそう」「寝たきりにならない、しない」というテーマを掲げ、老いを地域や会員同士で支えあう仕組みを構築してきたが、死後もつながりたいという会員からのニーズが高まってきたのがきっかけだという。

生前にお墓を契約する会員が増えてきたことから、この組織では「永遠の会」を結成し、契約者と遺族を結ぶ会として、年に4回、ランチ会や合同慰霊祭など、会員同士の親睦を図っている。同じお墓に納骨されているという観点からみれば、「永遠の会」は遺族の共同体だが、いずれは自分もここに入るという観点では、死後の共同体であるともいえる。

■介護だけではない「死後の安心」を提供

高齢者住宅でも、共同墓を建立している。介護付き有料老人ホーム「宝塚エデンの園」は2010年兵庫県宝塚市の市営墓地に共同墓を建立したほか、伊豆市にある有料老人ホームライフハウス友だち村」は2012年に、神戸市サービス付き高齢者向け住宅「ゆいま~る伊川谷」は2013年にそれぞれ民間霊園に共同墓を建てた。

いずれも「子どもに迷惑をかけたくない」「墓の後継ぎがいない」との声が入居者から寄せられたからだという。現に共同墓には施設の入居者自身だけではなく、先祖の墓じまいをして、遺骨を共同墓に改葬する入居者も少なくない。

宝塚エデンの園を運営する社会福祉法人では、全国で運営する有料老人ホーム7カ所のうち、6カ所で共同墓を建立している。介護だけでなく、死後の安心も提供する仕組みだ。多くの共同墓では、入居者たちが年に一、二度お参りをする合同慰霊祭がある。終の住み家を同じくした人たちで、死後も共同性を継続していくという試みだ。

集落で共同墓を作る動きもある。鹿児島県奄美大島にある宇検村では、各家庭の「○○家の墓」を改葬し、集落ごとに「精霊殿」と呼ばれる共同納骨堂を建設し、集落の居住者や集落出身者の遺骨をひとつの納骨堂に納め、共同で供養している。お墓の清掃は集落の住人が持ち回りで月に2回、担当する。血縁を超えてみんなでお墓を管理し、死者を供養していけば、お墓が無縁化する可能性は低くなる。

ライフスタイルや家族関係が多様化するなか、子々孫々でお墓を継承することが不可能な時代になりつつあることは自明だ。一方で、「お墓は長男が継承するので、次男は新しくお墓を建てなければならない」など、思い込みによって精神的な負担を抱えている人も多い。お墓に対する正しい知識を持ったうえで、各自の価値観ライフスタイルに応じたお墓を選びたい。

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小谷 みどり(こたに・みどり
シニア生活文化研究所 所長
大阪府出身。博士(人間科学)。2018年末まで第一生命経済研究所に25年余り勤務。専門は生活設計論、死生学、葬送問題。近著に、『<ひとり死>時代のお葬式とお墓』(岩波新書)、『ひとり終活』(小学館新書)、『没イチ』(新潮社)など。奈良女子大学、立教セカンドステージ大学で講師をするほか、身延山大学、武蔵野大学の客員教授も務める。

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