2018.12.17『 死んだことを家族に知られたくない….. 』 ~多死社会ニッポンの現実~ その②

 

◇遺体の引き取りを拒否する親族も多い

関西圏のある医療機関のソーシャルワーカーからエンディングセンターに電話がかかった。緊急入院した患者の皆川和子(仮名・81歳)さんが、エンディングセンターの人に来て欲しいといっていると。

私ともう一人のスタッフが飛んでいくと、皆川さんは集中治療室に入っており、いつ容体が悪化するかわからない状態であると聞かされた。そこでまず保証人が必要だというのだ。

私は「保証人というのは、本人が治療費を払えなかったときの金銭的な保障なのか、それとも亡くなった時のご遺体の引き取りですか」と聞くと、「後者だ」と言われた。

すぐに私は保証人になった。そして本人の希望もあって、死後サポートの委任契約を進めることになった。

実は皆川さんは、数年前に「死後サポートの委任契約」を進めていた人である。しかし途中で「甥が面倒を見てくれそうだから」ということで契約を白紙に戻した。うれしかったのだろうか皆川さんは、甥を相続人にした遺言書を書いた。

ところが翌年の正月、甥がやって来て「おばさんの面倒はみられない」と告げた。そのような事情を、すぐにエンディングセンターに言うに言えずにいた矢先に、緊急入院となって、また委任契約をすることになったというわけである。

このように身元がわかっていても、遺体の引き取りを拒否する親族も多いのが事実だ。

「夫婦それぞれ4人の親のことだけも大変なのに、叔母のことまで手が回らない」

「長いこと会ってもいないので親戚という意識はない。遺体を引き取ることなどできっこない」

「遠縁にあたる人で、会ったこともない」「家を勝手に出ていって苦労させられた。顔も見たくない」……

先に「身元がわからない」遺体は「行旅病人及行旅死亡人取扱法」に拠って措置されるという話をしたが、「身元はわかっている」のに死後の遺体の引き取り手がいないケースは、「墓地、埋葬等に関する法律」第9条(死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない)が適用される。

しかし、これにも第2項がある。

「(前文略)その費用に関しては、行旅病人及び行旅死亡人取扱法の規定を準用する」という文言で、ここにまた「行旅病人及行旅死亡人取扱法」が登場し、責任を負う者は自治体なのである。

この法律の大活躍によって、今自治体では、身元がわからない遺骨を安置するスペースが増え続け、葬祭費がかさみ続けている。


◇法整備と社会システムの構築 

          

これまで福祉も法律も死者を対象とせず、わずかにあるのは「⽣活保護法」の第18条・葬祭扶助と、「墓地、埋葬法に関する法律」第9条、「⾏旅病⼈及⾏旅死亡⼈取扱法」による措置である。

ところが現在増えているのは、葬儀代金等もあり、⾝元もはっきりしているが、死後のことを託す者がいないケースであって、先の法律の範疇を超えた、既存の法律が想定していない事態が進んでいるのである。

いままさに多死社会、単身社会に適合した根本的な法整備が必要な時期に来ている。明治時代に制定された法律の、それも主たる対象ではないところで措置しているようなことでは、本格的にやってくる単身社会は乗り切れないだろう。

あらゆる動物の中で⼈間だけが「死者を葬る」行為を行うという。だとすれば、「⼈間の尊厳」という概念が及ぶ範囲は「埋葬まで」であるといえよう。

これまで家族がいたからこそできたことを、家族機能が弱まった現代社会では、家族に代わって行う死後サポートのような「葬送の社会化」が広まって行かなければならない。

つまり、⾏政の「措置」から、自身の自由意志による生前「契約」への移⾏が課題となっている。

死後の措置で財政的な圧迫を受けている地方自治体や社会福祉協議会のごく一部で、生前契約が始まった。

そんな中で2000年から死後サポートを手がけている認定NPO法人エンディングセンターでは、そのノウハウを社会に広め、葬送の社

会化を進めているのである。

現代ビジネスより https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58926