2018.10.30生前契約のこと

終活とは、簡単に言えば「自分の最期を託す人を見つけ、どうしてもらいたいかを伝えること」だ。かつて家族の代表的な姿だった三世代同居なら、子や孫たちとコミュニケーションをとる機会は多く、終活についてさほど深刻に考える必要はなかった。

だが、少子化・核家族化が進んで、後を託す家族が近くにいないケースが増えた。子どもがいなかったり、いても離れて住んでいたり、中には頼りたくないという人もいるだろう。そんな高齢の「おひとりさま」が増えている。高齢夫婦だけの世帯もその予備軍だ。彼らの間で注目されているのが、身元保証や財産管理といった生前の事務や、葬儀や納骨などの死後の手続きについて、元気なうちに指示しておく「生前契約」だ。


身元保証、生活支援、死後の手続き…

「家族の役割引き受けます」「死後の支払い引き受けます」。こんなうたい文句を掲げるのは、NPO法人の「りすシステム」(東京・千代田)だ。日々の暮らしの中で求められる手助けや、死後に必要な様々な手続きを、契約を結んで請け負う。1993年に設立された同法人は生前契約の老舗とされる。会員数は累計で約5000人に上る(うち存命の人は約3300人)。国内各地で月1回程度説明会を開いており、参加者は主に60~70代。最近では50代も増えている。夫婦でやってきた人も含めて約7割を女性が占める。


りすシステムの前身は90年に発足した「もやいの会」。当初、跡継ぎがいない人を対象にした合葬墓(がっそうぼ。血縁を超えた人たちで一緒に入る共同墓)を手掛けていた。だが、会員から「ひとりで入れるお墓ができても、お骨はひとりで歩いていけない。だれがお墓に入れてくれるのか」との声が上がり、墓に入るまでの手続きや自宅の片付けなどを引き受けるため、りすシステムを立ち上げた。現在では、死後だけでなく、身元保証のほか、日常生活や療養看護といった生前の業務も含めて、メニューは多岐にわたる。「あなた流の生、自己責任の死をサポートします」と代表理事の杉山歩さんは話す。


名古屋市が発祥のNPO法人「きずなの会」は2001年の設立。現在は中部・東海・関東の14カ所に事務所を構え、事業を展開する。「身元保証」「生活支援」「葬送支援」を柱に掲げており、病気やけがなど緊急時のサポートから、葬儀・納骨に至るまで生涯にわたる幅広い支援を手掛けている。契約者は70~80代が多いが、最近は50~60代も増えている。「新規加入は年間で800~900人に上る」と話すのは東京事務所長の杉浦秀子さん。契約者は累計で約9500人。この中には亡くなった人も含まれており、存命者の比率は半分弱だ。


三世代同居減り、増える単身の高齢世帯

高齢のおひとりさまの増加が目立つ。2010年の国勢調査では、65歳以上のひとり暮らしの人数は男女合計で479万人と、5年前に比べて24%増えた。未婚率の高まりもあって、今後も増加が見込まれており、35年には762万人に達すると予測されている。


一方で減少したのが、かつて世帯の主流だった親と子、孫の三世代同居だ。厚生労働省の「国民生活基礎調査」で、65歳以上の人がいる世帯の構造を見ると、1980年には三世代同居は50.1%と半数を占めていたが、2014年には13.2%に減った。

高齢者のひとり暮らしには気がかりなことが多い。大きな心配事は介護が必要になったり、死が迫ったりしたらどうなるかだ。亡くなったときにだれにも見つけてもらえない恐れがあるし、万が一、認知症になったり、体が不自由になったりすれば、世話をしてくれる人も必要になる。また、入院や手術、施設入居などの際には保証人を求められる。お金があっても保証人がいないと入居できない場合があるので、頼れる家族や親戚・知人がいなければ探しておく必要がある。子どもや親戚がいても、迷惑をかけたくないという人も多いだろう。こうした不安を感じる人が注目するのが、各種の手続きを家族の代わりにやってくれる代行サービスだ。エンディングの準備や実行などを第三者に託して生前に契約しておく。

存命中の安否確認や、施設入居・入院の際の身元保証人、財産管理を代行する「事務委任契約」、認知症などで判断能力が不十分になった場合に備えて後見人を決めておく「任意後見契約」、加えて死後の届け出や、葬儀や墓の手続き、遺品整理などを任せる「死後事務委任契約」などが代表例だ。

こうした生前契約を手掛ける事業者は、NPO法人や財団法人を主体に増えている。あらかじめ結んだ契約に応じてスタッフが高齢者を訪ねて、その内容を実行する。費用は事業者で異なるが、支払った金額の多くを預託金としてプールしておき、必要なサービスが生じた場合に預託金から支払われる仕組みが多い。


当初費用、100万円超えるケースも

前述の「りすシステム」は死後事務の基本料金が50万円。入院や施設入居の保証人など生前の事務は必要に応じて依頼する。財産の管理や日常の話し相手、ペットの世話や墓参の代行、介護認定の立ち会い、医者選びの手伝いなどもメニューにある。申込金(5万円)に預託金、公正証書の作成費用などで「当初費用は100万円程度になるケースが多い」(代表理事の杉山さん)という

2014年に会員になったAさん(73)は、15年前に夫を亡くして埼玉県の団地でひとり暮らしをしていたが、「突然息苦しくなって」病院に運ばれたのが契約のきっかけだった。友人から、りすシステムのことを聞いて、自分でも調べ、死後事務と生前事務、認知症への不安から任意後見契約も結んだ。費用は100万円を超えたという。

一方の「きずなの会」は、身元保証・生活支援・葬送支援を備えた基本プラン(入会金含む)は190万円となっている。身元保証のみや生活支援だけなら金額は100万円を切るが、基本プランで契約する人が多いという。年金や預貯金が少ない人向けには毎月1万円からの分割払いも可能だ。このほかに金銭預託手数料と年会費が合計で年2万2000円かかる。契約は弁護士法人との三者契約で、預託金は弁護士法人が管理する。

行政書士や弁護士らも生前契約を手掛けている。東京都内にある行政書士の事務所を例に挙げると、生前契約には「見守り・事務委任契約」「任意後見契約」「死後事務委任契約」などがあり、契約時にそれぞれ10万円かかる。これとは別に預貯金管理といった日常業務に毎月5000円が必要。原則として、各種の契約や財産管理といった法律行為を本人に代わって行い、その都度、費用がかかる。


 契約内容やお金の流れ、よく調べて

おひとりさまでも、サークルや趣味の会、近所付き合いなどでコミュニティーに積極的に参加していれば、生前の見守りや死後の事務を周囲に頼めることもある。契約は不要で、その方が費用も安く済む可能性がある。日常の見守りを友人や行政のサービスに託し、住まいの片付けなど一部について業者と生前契約しておくのも選択肢だ。ただし、こうした様々な業務について、それぞれ代行してくれる人を探し、依頼するのは煩雑な作業。生前契約の事業者はこれらをパッケージにして提供する。100万円を超えるような金額について、高いか安いかは、こうした手間も含めた契約者の価値判断によるだろう。

契約は長期間にわたることもあるので、内容を吟味して決めたい。高齢者向け施設の情報提供や相談を手掛ける「シニアライフ情報センター」(東京・渋谷)の池田敏史子代表理事は、「自分が何をやってもらいたいのかを整理したうえで、事業者がそのサービスを持っているのか、だれが実施するのかよく調べたい。説明会に参加するときはひとりではなく、複数で行き、あとで参加者同士話し合いたい。契約書については専門家に見てもらうのがいいだろう」と話す。16年3月には02年に設立された公益財団法人「日本ライフ協会」が預託金の流用で運営が行き詰まるという事態もあった。お金の流れや運営主体の収支状況など細かい点も確認したい。


任意後見契約で認知症に備え

「任意後見契約」は、認知症などで判断能力が低下した高齢者らをサポートする「成年後見制度」に基づく仕組み。同制度には、すでに判断能力がない人に対して、家庭裁判所が後見人を選ぶ「法定後見制度」と、判断能力がある人が元気なうちに、財産管理や療養看護の事務手続きなどを代理でしてくれる後見人を決めておく「任意後見制度」がある。今は健康だが、将来認知症になったら身の回りのことやお金の管理ができなくなってしまうのでは、と不安を感じる人はこの任意後見制度を利用するとよい

手順としてはまず、いざというときに後見人になってくれる人を探し、その人との間で契約(任意後見契約)を結ぶ。契約の中身は自由に決めることができる。自分の判断能力が低下した場合に備えて、生活や財産管理の面でしてほしいことを盛り込んでおく。契約相手を「受任者」といい、家族や親戚である必要はない。

契約を結んだ後、実際に本人が認知症になったときに、受任者などが家裁に一定の手続きを申し立てる。それが済むと任意後見契約に効力が生まれ、受任者は、後見人として本人に代わって財産管理などをできるようになる。任意後見契約に関しては、公証人に公正証書を作成してもらう必要があるので、手数料や印紙代などがかかる。日本公証人連合会の調べでは、契約の締結は年々増えており、この10年間でほぼ倍増。16年には1万559件となった。詳しくは・・・マネー研究所


恩送り事務局にも、多数の相談が寄せられます。お墓について 供養について お寺について これからの自分のことについて・・・

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