2020.02.02生き抜く力を伝える。助産師が開催する「いのちの授業」
助産師の方々がチームを組み、行政や公立小学校と連携して特別授業を行う「いのちの授業」。聴診器で心臓の音を聞き合ったり、赤ちゃんの模型を抱っこしたりと、命の重みや大切な人とのつながりを考える機会を子どもたちに提供しています。
そんないのちの授業を開催されている助産師の小野山利江子さんに、お話を伺いました。
愛を再認識し、生きていく力を考える
新田:なぜ助産師を目指されたのですか?
小野山:テレビで助産師の活躍を見て、強い女性のイメージを抱いたのがきっかけです。自分自身で判断し、対応していく姿に、自分もそうなりたいと思いました。最初は自分にできるわけがないだろうと思っていましたが、高校卒業後、看護師免許と助産師免許を取得。助産師としてのキャリアを歩み始めました。
新田:現在、子育てはされていますか?
小野山:ありがたいことに、今は子どもに恵まれていますが、高校時代に妊娠し流産した経験があります。その後、妊娠しても流産が続き、いつも「子どもが死んでしまうのではないか?」と不安を抱えていました。若年者の妊娠や不妊治療など、今の社会について感じることは多いです。
子育てでは自分の生き方を見せることを大切にしています。弱い自分も素直にさらけ出し、子どもに多くを学び取ってもらいたいんです。子育ての最終目標は、我が子の「死の恐怖」を緩和することだと考えています。
新田:深い経験がいのちの授業での活動につながっているのですね。いのちの授業ではどのようなことをされているのでしょうか。
小野山:行政や公立小学校と連携しながら、「生きていく力 生き抜く力」を考える様々な活動に取り組んでいます。変化する環境の中では、「自分が好きな自分でいられること」「自分を信じられること」「自分をあきらめないこと」が大切になると考えています。
自分が今存在するのは、自分が生きることができるように働きかけてくれた誰かの存在があるからです。今、ここにわたしがいるということは、母、父、祖母、祖父、周りの人々、たくさんの人が関わっているからです。守られてきたこと、愛されてきたことを子どもたちに再確認してもらい、大きな困難に直面した際に「生き抜く力」につながればと思っています。
新田:小野山さんがいのちの授業で大切にされている思いをお聞かせください。
小野山:いのちの授業には不正解はありません。一人ひとりが得た学びや感覚は、全て間違いではありません。他の人の意見についても、「そんな考え方もあるんだ」と受け入れるような、ほのぼのとした空間づくりを大切にしています。気ぜわしい環境や心の流れから少し離れて、こころの栄養補給ができるような、ほっとする居場所づくりを心がけています。
新田:学校の先生方からはどのような意見をいただいていますか?
小野山:小学校に通う子どもたちだけでなく、「保護者も一緒に授業を受けたい」というお声をいただいています。現代社会は心の支えや自分を吐き出す場所がなく、それは大人も同様です。子どもにとっても大人にとっても、いのちのつながりや愛を再認識することは大切なことなんだと思います。
新田:いのちの授業は、全ての人に当てはまる授業なのですね。現在の取り組みについて教えてください。
小野山:川崎市中原区との協働事業「総合子どもネットたワーク」の副代表をしながら、子育ての情報共有や他の関係団体との連携を進めています。また、カウンセラーの資格を取得し、特に保護者への個別カウンセリングに力を入れています。「先が見えない」「相談する人がいない」と悩みを抱えている方々から、「聞いてもらえて嬉しい」とお言葉をいただける時は大変嬉しい気持ちになります。
今後は子どもや保護者の「居場所作り」にも取り組んでいきたいです。家族周りのサポートを大切にして、生き抜く力をつないでいけたらと思います。
いのちの授業は仏教ともかかわりが深く、深く温かい思いを感じました。今後は恩送りとして小野山さんと連携し、子どもだけでなく大人からお年寄りまで対象にした「恩送り いのちの学校」を開催することを目指しています。お寺でのイベントや老人ホーム、社員研修などの場をお借りして、いのちの授業の輪を広げていきたいと思います。